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2SD2531のシミュレーション・モデルを作る [電子工作]このエントリーを含むはてなブックマーク#

パワー・トランジスタを用いた回路のシミュレーションを行おうと思いました。 ところが、手持ちの2SD2531というトランジスタは、シミュレーション・モデルが提供されていません。 東芝さんはシミュレーションモデルを提供してくれないようだし、そもそも、東芝のサイトからは2SD2531のデータシートさえ入手できません。 仕方ないから、自分でモデルを作っちゃおう。

とは、言ってもモデル・パラメータの設定方法など知りませんので古い参考文献を引っ張り出してきました。

飽和電流を設定する

WS000289.png

最初のステップは、パラメータ IS の設定です。 バイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧 VBE は、ベース電流の対数値の一次式になり、電圧が 0V になる時の電流値を IS とあらわしています。

モデル・パラメータを決めるために使用する回路図は、これです。 この回路では純粋にベース・エミッタ間のダイオードとしての特性を測定することになります。 ところが、 2SD2531 のデータシートには、同じ条件での測定グラフはありません。 さて、どうしようかな。

WS000290.png

試行錯誤の結果、決めた値が、 Is=2.1e-14 です。 VBE-IB の関係はこうなりました。

データシートによると、コレクタ電流が IC=0.1A の時、 VBE=0.64V です。 hFE-IC グラフによると、 IC=0.1A の時に hFE=170 なので IB=0.59mA と推定されます。 そこで、IB=0.59mA の時に VBE=640mV となるように調整したのが、この値というわけです。

もっとベース電流を減らしたほうがベース抵抗などの影響が減るため、誤差が小さくなるはずです。 本当は、実測すべきなのでしょうが、まあ、こんなもんでいいでしょう。

hFE特性をあわせる

WS000291.png

次は、 hFE の特性グラフを再現します。 シミュレーションのために使用したのは、この回路図です。

参考文献では、 IB を変化させたときの IC の値を横軸に、 hFE すなわち IC/IB の値を縦軸にとっていたのですが、LTspiceの波形表示には、横軸の変数を任意に指定する方法が見つかりませんでした。 そのため、「電圧制御電流源」を使用して、「 VCE が 5V になるように IB を調整する」フィードバック回路を作成して、 IB を供給しました。 「電圧制御電流源」のゲインは、誤差が十分に小さくなるように百万倍としてあります。

LTspiceで横軸の変数を指定する方法について、コメント欄にて gomisai さんに教えていただきました。 横軸を左クリックした時に出てくる "Horizontal Axis" の "Quantity Plotted" に数式を入れるのだそうです。 詳しくは、LTspiceのグラフの横軸を変更する:ねがてぃぶろぐをご覧ください。

このステップの調整は、結構大変です。 hFE は、コレクタ電流によって変動するのですが、電流が多くても少なくても低くなります。 そのために、多くのパラメータを設定しなくてはなりません。

WS000292.png

手始めに、参考文献の記述に従って、 hFE の最大値(360)を Bf に、 hFE が半減する時のコレクタ電流値 IC=0.55 を Ikf に設定してみました。 データシートによると、 hFE のピークは、 IC=0.06 のところにあるのですが、このグラフでは、もっとコレクタ電流の低いところにピークがあるようです。

WS000293.png

再び、試行錯誤して、パラメータを微調整しました。 IC=0.06 の所にピークのあるデータシートのグラフに良く似た特性ができました。 求めたパラメータは、以下の通りです。

Bf=700 Ikf=0.47 Nk=0.56 Ise=3e-13 Ne=1.48

アーリ効果を設定する

WS000295.png WS000296.png

次は、アーリ効果を設定します。 回路図と適当な値 50 を入れた時の結果は、こうなりました。 見てお分かりのようにデータシートのグラフとは、ずいぶん雰囲気が違います。 このパラメータは、必要があれば、後で調整します。

飽和電圧特性を設定する

WS000298.png WS000299.png

次は、コレクタ・エミッタ間飽和電圧 VCE(SAT) を調整します。 使用する回路図は、これです。 「電流制御電流源」を使って、データシートの記述どおり、 IC/IB=20 に調整してあります。

まず、コレクタ電流 IC=10mA の時の VCE(SAT) がグラフから読み取った値 VCE(SAT)=16mV になるように Br を調整します。 その結果、 Br=31.0 が求まりました。 ずいぶん、大きくなっちゃったね。

次は、 IC=4A の時の VCE(SAT) をグラフから読み取った値 VCE(SAT)=1.74V になるようにコレクタ抵抗 Rc を調整します。 その結果、 Rc=0.411 が求まりました。

次は、ベース抵抗 Rb を求めたいのですが、データシートには、 VBE(SAT) のグラフがありません。 本当は、実測すればよいのですが、ここでは適当に Rc の十倍の Rb=4.11 としておきます。

AC特性を設定する

次は、AC特性をあわせます。 ところが、データシートでAC特性に使えそうな値は、 COB しかありません。 何とか、計算してみますか。

WS000300.png WS000301.png

データシートにある値、 COB=35pF は、 VCB=10V, IE=0, f=1MHz の時の一点での値です。 この条件の時、 COB のインピーダンスは、 1/(2×π×f×COB)=4547[Ω] となります。 そこで、 1mVP-P の信号を与えたときに流れる電流が 0.220µAP-P になるように Cjc を調整します。 その結果、求められた値は Cjc=85.6e-12 となりました。 Cje は、参考文献の記述どおり、 Cjc の1.5倍 Cje=128e-12 としました。

このシミュレーションは、電圧も電流も微小になっているので、精度の良いシミュレーションが必要になります。 そこで、Relative tolerance 1e-5, Absolute Voltage tolerance 1e-8(V), Absolute Current tolerance 1e-12(A) としてシミュレーションをおこないました。

スイッチング特性は、どうしましょう?

参考文献にあった最後のステップは、スイッチング特性です。 ところが、データシートには、スイッチング特性に関する項目は、記述がありません。 しかたないから、デフォルトの 0 のままにしておきます。

使用上の注意

以上、パラメータを決めてきましたが、温度特性については全く設定していません。 また、データシートだけを情報源としており、実物の測定などは一切行っていません。 そのため、使用条件によっては合わない可能性もありますので、必要であればパラメータを修正してください。

.model 2SD2531 NPN(Is=2.1e-14
+Bf=700 Ikf=0.47 Nk=0.56 Ise=3e-13 Ne=1.48
+Vaf=50
+Br=31.0 Rc=0.411 Rb=4.11
+Cjc=85.6e-12 Cje=128e-12
+Vceo=60 Icrating=4 mfg=TOSHIBA)

参考文献

トランジスタ技術 1991年 6月号
この記事は、「SPICEによる電子回路設計セミナ」という連載を参考にしました。 この記事は、単行本にはなっていないのかなあ。

参考になりそうな文書

Chapter 5 EEE 102 Course Material
カリフォルニア州立大学サクラメント校の講義資料のようです。 "BJT Fundamentals Lecture Slides"にバイポーラトランジスタの話が書いてあります。 "FORWARD"と"REVERSE"って、そういう意味だったのか。
Principles of Semiconductor Devices
こちらは、コロラド州立大学ボルダー校の講義資料(市販本?)です。 SPICEのパラメータの計算式が書いてありますが、これを計算するんですか?
H. K. Gummel and H. C. Poon, "An Integral Charge Control Model of Bipolar Transistors," Bell. System Tech. J., vol. 49, pp. 827-852, May 1970.
バイポーラ・トランジスタ・モデルの元祖は、この論文だそうです。 googleさんに聞いても、論文そのものは出てこないな。
IC-CAP Characterization & Modeling Handbook
Agilentさんのパラメータ抽出ソフトウェアのマニュアルです。 この中に"6.2.1 Gummel-Poon bipolar model"という"SPICE"モデルとパラメータの意味について詳しく書いてあります。 何より、視覚的に理解できるところがうれしい文書です。

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コメント 2

gomisai

noritanさんこんばんは。

私もSPICEモデル製作の入門書を1冊ぐらいは欲しいと思っているのですが、何かよい本はないでしょうか。さすがに91年のトラ技は古すぎて入手困難です。
自分でモデルを作るかはともかくとして、パラメータが何を表しているかぐらいは知っておきたいと思うので。

さて、主題からはそれますがLTspiceでもグラフの横軸を変更することができます。
方法は簡単なのですが、あまり知られていないようなのでエントリにまとめました。トラックバックさせていただきます。
by gomisai (2009-02-02 00:00) 

noritan

gomisaiさん、コメントありがとうございます。
これで、変なフィードバックを持った回路を作らなくて済みます。

SPICEモデルの入門書、無いのだったら自分で書いちゃいますか。
# 出来上がった文書の品質が問題ですが。

by noritan (2009-02-02 08:53) 

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